沖祐市ソロアルバム「ひつじさんとわたし」
 

沖祐市ソロアルバム「ひつじさんとわたし」より「パラソル」「SeptemberSlow」の2曲が視聴できます。

■「パラソル」視聴する
■「September Slow」視聴する

 

こんにちは、沖祐市です。改めて、この度ソロアルバムが出る事になりました。
今回、この場をお借りして、このアルバムの紹介という意味で、個人的な思い出や、録音の事などを、
あれやこれや、書いてみたいと思います。

もし良かったら、お付き合いください。

その1 絵本とわたし
その2 旅とわたし
その3 ピアノとわたし

【その1 絵本とわたし】

今回のCDは、絵本のようなものにしたい、と思いました。
大人になっても、ずうっと側に置いておきたくなるような。
誰でも何冊かは記憶に残る絵本があるのではないでしょうか?

僕が子供の頃好きだった絵本に「ドレミファブック」というのがありました。
それは絵本とレコードがセットになったもので、毎月一冊ずつ家に届くのです。

普通に「カレーライスの歌」や、「ぞうさん」なんかも入っていたのですが、今でも印象的なのが、
「宇宙船ペペペペラン」というものでした。
ものすごく大ざっぱにあらすじを言うと、27人の子供が乗った宇宙船が、果てしない旅に出ている。
そこに乗った子供は、大人になって亡くなるまで、ずうっとその宇宙船に乗っている。
つまり、一生をそこで過ごす。

やがて、子供は成長し、男の子と女の子がセットになっていく。
けれど宇宙船には14人の男の子と13人の女の子が乗っていたので、どうしても男の子が一人余ってしまう。

余ってしまったのは、弱虫ロンという男の子。

ある時宇宙船に隕石がぶつかって航行不能、絶体絶命の危機になる。
誰かが外に出て直さなければいけない。そこへ何故か弱虫ロンが飛び出していく。
泣きながらトンカントンカン宇宙船を修理する。
ロンのおかげで宇宙船は直る。けれどあろう事か、宇宙船はロンを残したまま飛び去って行ってしまう。
ロンは虚空の宇宙に取り残される。そして音にならない声で叫ぶ。
宇宙船もロンも、その後どうなったのか誰も知らない。

そして主題歌。エコーが深くかかった音で「♪ペペペペランは、宇宙船〜♪」

・・・今こうやって書いてみても、なんてヒドいお話を子供に聞かせるんだー!
と思ってしまいますが、何故か今でもよく覚えているのはこういうお話なのです。

今調べると、これを書いたのは、僕も大好きな谷川俊太郎さんなんですね。うーむ。

ドレミファブックには、もちろんこんな暗い話だけではなく、
自動車国と革靴国が、お互いの利益をめぐって争っている世界に、主人公の子供がやってきて、
信号機や、横断歩道、交通ルールを教えてあげて仲直り、最後はチョコレートで出来たロケットをもらって現実の世界に帰ってくる、といった話もあり、楽しめるものでした。

黒柳徹子さんが、革靴国の声優をやっていて、素敵な声だなあ、と思って聞いていました。
谷川さんといい、あの当時は、まだ、日本が高度成長のどまんなか、先例は自分たちで作る!といった空気があったのでしょう。
子供の絵本ながら、作家性にあふれたものだったと思います。

子供の絵本ながら?・・・絵本と言うのは、実はユーモアや、シュールな雰囲気、といったものをとても表現しやすいフォーマットなのかもしれませんね。
しかしどんなに暗い話でもそれがイジワルな感じにならないのは、根底に「可愛らしさ」や「愛おしさ」という大人のやさしい視点があるからなのでしょう。

力及ばずながら、今回の「ひつじさんとわたし」にも、親からもらったたくさんのものが、いつの間にか、たくさん詰まっているのだと思います。



【その2 旅とわたし】

ウォークマンと共に僕の音楽生活は始まった。こう書くとまるで下手な宣伝文句のようだけど、本当に僕にとってバッチリなタイミングでウォークマンは登場したのでした。ちょうど小6か中1の頃。

ちょっと「ワル」な友人の影響で、ラジオの深夜放送を聴き始め、TBSの「スネークマンショ−」なんてのを布団にくるまって聴いているうちに、ロックに目覚めていった。

Cheap TrickやThe Knack、Eagles、LedZeppelinなんかを文字通り浴びる様に聴いていた。
スピーカーに首を突っ込む様にして・・・。
そして、ウォークマンの登場によって、それらと共に、どこまでも旅して行く事が出来る様になった。
気にするのは単3の乾電池を2本買うお金の事だけ(なんつって)。

鉄道が大好きだった。暇さえあれば、時刻表を見て仮想の旅の計画を立てた。
ロックを聴きながら。今でもCheap Trickの「Come OnCome On」を聴くと、鉄道のガタンゴトンという音とリンクして、永遠の旅をしている様な気分になる。

これは後で知った事だけど、ロックンロールやブギウギのベースラインは、「汽車の様に」プレイする、という表現があるそうで、これは実感としてとてもよく分かる。

夏休みによく旅をした。中3の頃、東京発大垣行き鈍行夜行列車に乗って南紀を旅した時(この列車とうとう廃止になるそうですね)、横に乗った高1の男の子がやはり洋楽好きで、ウォークマンを聴いていた僕と良く話した。朝になるまで。

その時に「FleetwoodMacの『噂』というアルバムは、本当に素晴らしく良いから、是非聴いてご覧。」と言われた。
家に帰って聴いてみると、本当に腰が抜けそうになる程素晴らしいアルバムだった。
ちなみに、その男の子はこれからガールフレンドのお家に泊まりにいくそうで、さすが高校生は違う!とドキドキしたのを良く覚えています。

僕の聴いていたものはあまりに素晴らしく刺激的だったので、実際のところそれらが「音楽」だと意識する事すら出来なかった。
習っていたピアノを断念した事で、「音楽」というのは、なんだか敷居の高い、近寄り難いものになっていた。
それに対して僕の聴いていたものは、「こぶしを挙げたくなる」ものだったり、「意味もなく走り出したくなる」ものだったり、「息が切れるまでジャンプする」だったりした。

実際にあまりに家の中で踊り狂っていたために、電話して来た友人が、僕がゼーゼー息を切らしているので、笑っていたほどだ。

「こんな素晴らしいものに囲まれながら、いつまでも旅していきたいなあ。」と思っていた。
そして幸運な事に、僕は今でも世界中を音楽と、そして友達と共に旅している。
ウォークマンがiPodになったけれど。

2003年頃か、スカパラのヨーロッパツアーでドイツのケルンに行った時の事、泊まっていたのは市内中心部から少し離れていたのだが、ふと思い立って、電車に乗ってケルンの大聖堂を見に行った。

近代的な駅からいきなり見える、それとは対照的に歴史の重みを感じさせてそびえる大聖堂の存在感にまず圧倒された。
入り口でチケットを買い、中に入る。

広い空間、エコーする音、祭壇に灯された沢山のろうそく、色鮮やかで巨大なステンドグラス、礼拝用の木製の長い机と椅子。
どのように計算されて組まれたのか想像もできない無数の石の柱。
自分に宗教心があるかどうかではなくて、こんなに複雑で美しい物を、人間が創り上げてしまう、その情熱と意思の力に打ちのめされてしまった。

その後スイスに移り、たまたま立ち寄ったCDショップでキース・ジャレットの「ケルン・コンサート」を見つけ、「あ、ケルンだ。」という軽い気持ちで買ってみた。

バスに戻り、辛うじて寝返りが打てる広さのベッドに寝転がってCDウォークマンにCDをセットした。
プレイボタンを押す。
「・・・!!」一音目からやられた。

どこまでも澄んで響き渡るピアノの音、痛い程伝わってくるキースの意識。全編即興演奏。
この先どうなるのか?なにかを作り上げようとする極めて人間的で奇跡的な意思の力がそこにあった。

キースが実際大聖堂に行ったかどうかは知らないけれど、あそこで僕が経験した空気感とキースの弾くピアノの音がリンクして、僕の中で震えていた。

30歳代も半ばを過ぎて、ロックへの目覚めに匹敵する程、人生変わっちゃう程の衝撃を受けるとは思わなかった。
石油や原子力に変わる無尽蔵のエネルギー源を見つけた思いだった。

かくして、子供の頃一度捨て去ったピアノにもう一度向き合う事になったのでした。




【その3 ピアノとわたし】

ピアノの音に恋したものの、「ピアノの音楽」というのは、音楽のジャンルとして括るには、あまりに大きすぎて捕らえ所のないものです。
自分が好きになったアーティストの作品を手がかりに足下を照らし、それに関連する作品を見つけ、点と点を線で結ぶ。
ロールプレイングゲームの様に人から情報を得て、また次の場所に向かう。
暗闇の中を一歩一歩手探りで歩いている感じですが、ちっとも寂しくなんかありません。
だって恋しちゃってますから。

今回は、広大な音楽の中から、音を通して僕と縁のあったアーティストを何人か紹介したいと思います。

■キース・ジャレット
「ケルンコンサート」や「ウィーンコンサート」などの完全即興演奏も凄いですし、「スタンダーズライブ」のような、トリオによる演奏も変幻自在で素晴らしいです。
一方でクラシックの演奏も沢山残しており、バッハやショスターコヴィチといった作曲家の演奏では、奇をてらわず、神々しいまでに美しい響きを聴かせてくれます。

「The Melody At Night With You」というアルバムは、ソロピアノで、スタンダードをあまりジャズ寄りではなく、美しく演奏していて、リラックスして静かに耳を傾けたい夜に最高です。
 「Facing You」というアルバムはデビュー盤なのですが、なんというか、言葉に形容し難い、正に生命の誕生の瞬間のような音楽です。
キースジャレットの音楽は、根底にファンクの要素と言うか、人間の紡ぎだすタフで暖かいグルーブみたいなものが感じられ、それが聴いているものに、生命感、躍動感を与え、さらには切なさみたいなものを感じさせるのではないかと思います。

■デューク・エリントン
ビッグバンドで有名な方ですが、ピアノも実に素晴らしいです。いわゆるハードバップのフレーズをバリバリ弾くのではなくて、作曲家、アレンジャーらしく、音楽を大きく、粋にとらえた演奏をしている気がします。

「Piano Reflection」というアルバムは、ピアノのメロディーが楽しく、バラードは甘いと言うよりは、エキゾチックで妖艶な感じで、一曲一曲がアトラクションを見ている様にキャラがはっきりしています。

「Money Jungle」というアルバムは、チャーリー・ミンガス、マックス・ローチという当時の若手最高峰のジャズミュージシャンを従え、無邪気に遊ぶ様に、時にはパンクの様に大胆な演奏をしています。

デューク・エリントンは、西洋の音楽と黒人のビッグバンドを見事に融合して昇華させた方だと思いますが、聴いていると、何故か東洋的な響きを感じる事が多く、スカパラでも演奏している「キャラバン」なども中近東テイストですし、何か人間のグッとくるツボ、みたいな、明るい中にも少し陰の部分、妖しい部分があり、そういう所にも魅力を感じるのだと思います。

■セロニアス・モンク
この人は、アバンギャルドで難解なイメージがあったのですが、今の耳で聞くと、まったく正反対で、非常に楽曲が美しく、よけいな音がなく、ポップなアーティストなのでした。

ピアノプレイに関しては、デューク・エリントン自身が言っている様に、エリントンととても近いものがあります。
古き良き、ブンチャ、ブンチャのストライドピアノがボトムにあるのですね。

愛らしく、やはりどこかに陰りがあり、けれど中心のグルーブはしなやかで、エネルギーに満ちています。
いつ聴いても良いです。いつ聴いても癒されます。

■グレン・グールド
クラシック界の中でも異端と見る向きもあるのかもしれませんが、彼の弾くバッハの映像を見た時は本当に衝撃的でした。
なんというか、この世のものとは思われない美しさ(風貌も)で、何よりとてもピュアに音楽に接している様に感じました。
キャリアの途中からコンサートをいっさい拒否して、レコーディングに専念したり、発言が結構青くさい、ニヒルな所があったりするのですが、内面は、とても芯が強く純情な人なのでは、と思います。
カナダ人ということで、ヨーロッパからの距離感、アメリカからの距離感があって、少し閉ざされた環境で紡ぎだされる音楽は、インターネット社会の現代を生きている人達のリアリティーと、とても良く呼応している気がします。

とにかく音の一つ一つが信じられないくらい粒立ちが良く、超高速にドライブしてゆき、録音にも非常にこだわっていた事もあり、ヘッドホンで聴いていると、ちょっとテクノをきいているかのようにハイになる瞬間があります。

しかし、テクノというものが、基本、機械でループされているために、何度も聴いていると、レコードの針飛びを聴いているような気分になる事が無きにしもあらずなのですが、グールドの音楽は、木で出来た機械というか、ナチュラルハイの極みのような気分にさせてくれます。

また、音の粒立ちや線の描き方、間、といったものに、とても日本的なものを感じます。
日本刀の美しさや、京都の街並みの美しさにとてもマッチする感じがするのです。

グールドは、夏目漱石を愛読していた、という話も聞くのですが、そういった事も関係がなきにしもあらずかもしれません。

■スヴャトスラフ・リヒテル
ロシアのピアニストですね。僕は「RICHTER THE ENIGMA/リヒテル:<謎(エニグマ)>〜蘇るロシアの巨人」という映画を見てこの人に開眼しました。
独学でピアノを始め、音階練習などはせず、ほぼ全ての曲を1ページ1ページずついきなり両手で正規のテンポでさらっていくそうで、そう書くと超絶技巧という印象ですが、映像を通してみると、楽曲を愛して、ただそれに真摯に向かっていく感じが良く伝わってきます。

映画の中にグールドがリヒテルについてコメントするシーンが出て来て、「ピアニストは2種類に分けられる。一つ目は何でも弾きこなしてやろう、といういわゆるヴィルトゥオーソタイプ、もう一つは、その作曲家、楽曲に、なんらかの運命的な繋がりを感じ、そこから音楽を創り上げていくタイプ。リヒテルは後者である。」というような事を言っています。

両者とも権威に無頓着と言うか、反骨精神が感じられる所が、僕なども共感できるポイントである気がします。

僕はバッハの平均律クラヴィーアが大好きなのですが、グールドとリヒテルの演奏は、同じ楽譜なのにこうも違うか!というぐらい違います。
でも僕はどちらも大好きなので、そういういろんな可能性がある所に、とても自由を感じます。
ちなみに、キース・ジャレットのバージョンも大好きです。

さて、好きなピアニストを挙げると本当にキリがなくなるので、この位にしておきます(ザビヌル、グルダ、アルゲリッチ、エバンス、テイタム、ゴンザレス、上原ひろみ、etc・・・)。

しかし、僕が好きなアーティストを全部挙げたとしても、音楽と言う広大な宇宙から見たら、あまりに狭いものでしょう。
宇宙はあまりに広くて、自分の時間はあまりに限られています。

でも、自分の心の琴線に触れるものを一つ一つ見つけ、線で繋ぐ事によって、少しずつ自分に出来る事、自分が何者なのかが見えてくる気がしています。

「ひつじさんとわたし」は、僕なりに、今自分が言える事を精一杯閉じ込めたつもりです。
僕と言う人間は、ちっとも変わっていない気もするし、やっぱり少しずつ前進している気もします。
今だから出来る事は確実にあるし、若かったから出来た事も、やっぱりあったのかもしれません。

例えば、Song For Loveという曲は、19歳の頃に作ったものですが、やはりその時だからこそ作り得た曲想だという気がします。

全曲自宅録音と言う事で、気楽な反面、肝心な所で物音が入って、しかたなく中断したり、あるいは納得できなかったりして、何百テイクとやったものもあれば、結局最初のテイクになったものもあります。

辛抱強く支えてくれたスタッフの方に感謝!!です。

そして「ひつじさんとわたし」を聴いてくれた方、いつも応援してくださっている方、本当にありがとう!!
超〜〜〜〜〜〜〜〜〜リスペクトっす。これからも素晴らしい先人達のリスナーであり、今という時間を皆さんと共有するパフォーマーでありたいと思います。

それではまた!PEACE !!




「ひつじさんとわたし」CTCR-14606
2009年1月14日発売
1. 森のおはなし 9. September Slow
2. おぼえてるかな 10. Eternal Memories
3. パラソル 11. ありがとう〜祝福
4. ひつじさんとわたし 12. 縁日
5. 迷路 13. Blue Moon
6. 亡き王女のためのパヴァーヌ 14.光を灯そう
7. Song For Love 15.睡蓮の舟
8. 一緒にいるよ  


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